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広島高等裁判所 昭和24年(新)34号 判決

控訴人 被告人 金川五郎

弁護人 鈴木惣三郎

検察官 津秋午郎関与

主文

原判決を破棄する。

本件を広島地方裁判所庄原支部に差し戻す。

理由

弁護人鈴木惣三郎提出の控訴趣意は別紙控訴趣意書副本記載の通りである。

第一、有罪の言渡を為すには罪となるべき事実を示さなければならないことは刑事訴訟法第三百三十五条の規定する所であるが同法条に所謂罪となるべき事実とは犯罪の構成に必要なる具体的事実を指称するものであつて公務員の職務執行妨害の手段としてとられたる犯人の所為が脅迫なることを判示するに当りては犯人が当該公務員に不法の害悪を告知し之を威嚇したる事実を示さなければならない。勿論当該公務員が実際畏怖したると否とを問わない又其の言動が必ずしも明示たるを要しない自己の性行経歴又は職業上不法の勢威を利用し之に応じないときは不利益を釀される危険あるべしとの危惧の念を抱かしむるべきものであれば足るのであるが右は判示事実自体に於て之を認識し得べきものでなければならない。原判決は「被告人等は警察官等に対し「十日市の福原の者」或は「広島の岡の者である旨申向けて同人等を脅迫しと判示し右「十日市の福原」或は「広島の岡」なる者が如何なる身分の者なるか又之れにより如何なる威嚇を与えるものかについては何等の説示をしていない、従つて右判示自体によつて之を威嚇手段として認めるには不充分たるを免れない結局原判決は理由不備の違法あるものと謂わなければならないから此の点に於て破棄を免れない。依つて弁護人の自余の主張に対しては判断を省略し刑事訟訴法第四百条に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 横山正忠 判事 大賀遼作 判事 秋元勇一郎)

弁護人鈴木惣三郎控訴趣意書

第一法令適用錯誤 判示第一脅迫暴行について 凡そ、刑罰法令を適用するに際りては判文上認定事実が該法令構成要件を充足するに十分なる客観的事実を掲記しなければならぬに不拘

一、警察官等に対して「十日市の福原の者」「広島の岡の者」である旨、申向けたることを掲記するに止まりて、其言動が抽象的に且又当該場合に相手方をして畏怖せしむるに足る所以の理由を説示せざるのみならず、刑法所謂脅迫罪の脅迫ありとするには其被害法益(五種)を個別的に判断掲記しなければ以て前叙の如く罪となるべき事実の認定ありしとは謂い難く判示この部分は要するに罪と為る可き事実無きに罰条を適用したものである。(他の上告論旨は省略する。)

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